米国の原子力発電所の承認を迅速化しようとする動きが、公共の健康や安全を守るための独立した規制機関に危険をもたらすと、元連邦政府の関係者が警告しています。特に、ドナルド・トランプ大統領は2050年までに原子力発電の供給を四倍にすることを目指し、規制緩和を進めるための大規模な行政命令を発表しました。この背景には、人工知能が高まるエネルギー需要に応えるため、安定した電力源としての原子力への期待があるとされています。
トランプ氏の命令の中でも特に注目すべきは、原子力規制委員会(NRC)の規制を削減し、発電所の承認を加速させる方策です。NRCは1975年に設立された独立機関であり、原子炉の安全な運用を確保することを目的としています。トランプ氏はその命令において、NRCが「リスク回避的」であると批判し、過去30年間で米国が新たに建設した原子力発電所の少なさを、同機関に責任転嫁しています。
しかし、三人の元NRC委員長は、トランプ氏が公共の利益を守る規制機関を非難していることは根本的な問題を誤解していると指摘しています。実際、米国で新たに建設された原子力発電所の数は過去30年間でわずか二つであり、その建設コストは180億ドルを超え、完工までに7年遅れました。さらには、サウスカロライナ州での二つの原子炉建設計画は、コスト超過のために2017年に中止されています。このようなプロジェクトの経営失敗は、西屋電機(Westinghouse)の破産を招く要因にもなっています。
規制の独立性が損なわれると、NRCは業界や政府の影響を受けやすくなり、原子力事故のリスクが高まる可能性があると元委員長たちは警告しています。トランプ氏の行政命令はNRCの歴史の中でも前例がなく、その危険性が指摘されています。このような状況は、2011年に日本の福島第一原子力発電所で発生した事故の教訓を踏まえると、特に注意が必要であると言えるでしょう。
トランプ氏の命令は、原子力発電所を迅速に承認することに重点を置いていると元NRC委員長のスティーブン・バーンズ氏も指摘しています。新しい規則の改訂には、マイクロリアクターや小型モジュール炉といった新しい原子力技術の導入も示唆されていますが、これらは従来の原発とは異なり、安全プロファイルも異なるため、慎重な分析が求められると専門家は述べています。
さらに、この規制の見直しにおいてホワイトハウスの管理予算局(OMB)や政府の効率性を確保する省庁がどのように関与するかは不明であり、NRCが政治的影響を受ける危険性もはらんでいます。また、NRCでは人員削減が命じられ、この時期において特に専門知識の喪失が懸念されています。これらの動きがNRCの独立した機関としての評判を損ない、米国の原子力技術の国際的な競争力にも影響する恐れがあると、専門家たちは警鐘を鳴らしています。



