ミラノ家具展(Salone del Mobile Milano)は、デザイン界の年間最大のイベントとして知られていますが、今年の中でも特に注目を集めた展示作品の一つが、インドのクラシックバイクブランドRoyal Enfieldが手掛ける新しい電動サブブランドFlying Fleaのアートコンセプトバイク——Motototemです。このバイクは、機械と彫刻を融合させた作品で、ブランドの最新フラッグシップモデルFF-C6をベースに、イタリア人アーティストMattia Biagiがデザインを担当しました。クラフトマンシップと自然素材を組み合わせたこのデザインは、モーターサイクルの存在意義をコンテンポラリーアートの視点から再定義しています。
Motototem は、伝統的なバイクの枠を超えた作品であり、そのデザインの核には自然と歴史へのオマージュが込められています。Biagi は、大理石、粘土、青銅、石材、レザー、吹きガラスといった素材を使い、FF-C6 の各種機械部品を一つひとつ改造しました。特に大理石製の燃料タンクは、1940年代の第二次世界大戦期における Flying Flea の空中投下仕様をオマージュし、当時のバイクが持つ無骨さとタフさを再現しています。青銅製のハンドルとフットレストは職人技の温もりを感じさせ、ヘッドライトとテールライトには吹きガラスを用いて微妙な光と影の屈折効果を生み出しました。タイヤに施されたツバメのトーテムは忠誠心と帰郷を象徴し、ウォールナット製のシートはクラフトの自然な美意識をさらに広げています。
視覚や触感のレイヤーだけでなく、Motototem は技術面でもFF-C6のコア性能をしっかりと受け継いでいます。車両にはQualcomm Snapdragonが提供するリアルタイム接続機能と音声ナビゲーションシステムが搭載され、スマートな操作体験を実現しています。さらに、インドとイギリスから200名以上のエンジニアが開発に携わった電動駆動システムによって、ドライビング性能と美しさが見事に調和。Motototemは単なる展示品に留まらず、実際に運転可能なモデルとなっています。
Flying Flea の登場は、Royal Enfield が電動バイク市場への進出を目指す意欲を示すだけでなく、アートとデザインへの寛大な姿勢も反映しています。電動車部門の成長責任者である Mario Alvisi は、Flying Flea が単なる新ブランドではなく、クリエイティブを核とした実験的プラットフォームであることを強調しました。このプロジェクトでは、さまざまな分野のアーティストやデザイナーを迎え入れ、未来のモーターサイクルカルチャーの姿を共に形作っていくことを目指しています。
Motototemのデザイン言語は、交通手段とアート作品の境界を打ち破っています。素材の選定から細部の加工方法に至るまで、自然や人間性への回帰という姿勢を映し出しています。これは単なるデザインウィークのためのコンセプト作ではなく、移動の本質に新たな解釈を与えています。テクノロジーとスピードが重視される現代において、モーターサイクルに詩的な魅力と深い省察を再び宿す試みです。



