Coldcardの旧ファームウェアに起因するseed生成の脆弱性で、オフライン管理中のビットコインが短時間で流出する事案が発生した。Coinkiteは7月30日に影響を受ける旧版のファームウェアを特定し、修正バージョンを公開している。
本件で最も重要なのは「オフライン=完全安全」ではない点である。問題の核心は、seed phraseの初生成時に十分な乱数性が得られていなかったことであり、その後いくらデバイスをネットワークから隔離しても、欠けたエントロピーは取り戻せない。
Coldcardのseed生成での脆弱性
Coldcardの技術説明によれば、2021年以降の一部ファームウェアで、seed生成の経路が誤り、期待されるハードウェア乱数ではなく、MicroPython用の疑似乱数生成器(Yasmarang)にフォールバックしていた可能性がある。結果、生成された12語のseedの実効エントロピーが本来の128ビットに達していなかった。
解析では、旧モデルのMk2/Mk3では有効探索空間が約40ビット、Mk4・Mk5・Qはsecure elementの一部エントロピーを含めても約72ビットと推定されている。これらは通常期待される128ビットを下回る数値である。

重要な点は、見かけ上ランダムな出力をハッシュ化しても、元々欠けているエントロピーを補えないことである。コールドウォレットは日常的なネットワーク攻撃を隔離できても、初期生成時の弱さを覆すことはできない。
41分で約1,082BTCが送金
オンチェーン解析をまとめたGalaxy Researchの報告によると、UTCで7月30日01:10から01:51の41分間に1,196のアドレスが全額移転され、合計で1,082.65 BTCが流出した。報告はこれを約US$70.2M、換算で約11,032,281,000円、約110.3億円と試算している。
送金は全て同じ30 sat/vBの手数料で行われ、釣り銭出力は使われていなかった。解析者はこのパターンを、複数ユーザーが同時に手操作で移動させたものより、既に私有鍵を特定した自動化ツールによる回収に近いと評価している。
なお、この金額はオンチェーン調査に基づく追跡結果であり、Coinkite側が最終的な損失額を公式に確定したものではない。以後の資金移動を含めると合計額は変わり得る。
AI関与は未検証の議論点

本件ではAIの関与を示す確固たる証拠はまだない。Coinkiteはソースコードが公開されていたため、誰かが過去のバージョンをAIで解析して欠陥を見つけた可能性は想定し得ると述べているが、実際の攻撃でAIが使われたかは未確認である。
被害を公表した利用者の一人、Jonathan Goodman氏は銀行の貸金庫でColdcardを保管し、装置は一度もネット接続していなかったと述べ、18.25245043 BTCの損失を報告した。今回の議論は、自律的に資産を管理することが取引所リスクから別の検証困難な責任へ変わる点を改めて浮き彫りにしている。
修復と移行の実務手順
Coinkiteは7月30日にセキュリティ通知を出し、影響を受ける機種とファームウェアを明示した。重要なのは、ファームウェア更新は新たに生成するseedにしか有効であり、既存のseedを修復することはできない点である。
影響を受ける可能性のあるユーザーは、まず自分が使用したColdcardの型番とファームウェア版を確認すること。該当するなら修正済みファームウェアを適用し、新しいseedを生成してバックアップを取り、少額でテスト送金を行ったうえで資産を移行する手順が推奨される。

メーカーは、最初のseed生成時に最低でも50回の独立した公正なダイス振りなどの外部エントロピーを加えるか、BIP-39のpassphraseを独立して設定する方法を提示している。ただし、一般ユーザーが理解せずに急いで実施するのは勧められない。
今回の教訓は明確である。Coldcardを含むコールドウォレットは運用上の重要な道具だが、初期設定の検証・ファームウェアの適用状況・バックアップの確認を継続的に行うことが不可欠である。単にデバイスをしまい込むだけでは不十分だ。
関係者の公式声明やファームウェアの公開情報に基づき、ユーザーは速やかに自己点検と必要な移行を行うことを推奨する。

