AI短劇の急増を受け、第31回釜山国際映画祭の記者会見で范冰冰(はんぴんぴん / ファン・ビンビン)は、AI短劇の演技が人間を超えたかと問われた際に、若い世代の審美が「吃得不太好」と影響を受けていると笑って語った。

范冰冰は普段からAI短劇を観ていると述べ、人工知能の映像生成は現在進行形で応用が進んでいると評価した。だが、登場人物の顔立ちが似通っている点が最大の欠点だと指摘した。

彼女は、実演する俳優は生活経験をもとに表情や感情に層があると述べた。対してAI短劇は結果だけを提示し、感情の積み重ねや演技の過程が見えにくいという。
数字が示す爆発的な供給と視聴
中国の国家广播电视总局(こっかこうほうでんしんきょく / National Radio and Television Administration)の9月発表によると、今年前8か月で43万本の微短劇が配信された。うち9割超がAIを活用しており、視聴者は8億人を超えるという。

范冰冰の「吃得不太好」という表現は、消費側の需要不足を指すのではなく、業界側が大量・低廉で同質化したコンテンツを供給している点を批判している。
規制当局の対応と市場の行方
規制当局は不均衡を察知しており、違規と判断した短劇6.8万本を配信停止にしたと報告している。そのうち9割がAI関連の作品だったという。
同時に当局は真人(実写)作品を支援する枠を設け、「AIはツールであり、人が創作の主体である」との方針を打ち出した。市場のコスト志向と政策の歯止めがせめぎ合っている。
制作コストが示す明確な差
制作費がAI短劇普及の主因である。従来の実写短劇は50万〜80万元人民元(約1,100万円〜約1,760万円)かかる一方で、AIを活用した作品は5万〜24万元人民元(約110万円〜約528万円)で済むとされる。

規模別にみると差はさらに明確だ。実写で100話を撮るには70〜80人のクルーが7〜15日を要する。だが生成ツール「Seedance」などを用いれば、5秒の映像を数元人民元で作成可能で、3人のチームが5日で一本を納品できるケースもある。
事例として微短劇『霍去病』は3,000元人民元(約6.6万円)の制作費で80話を制作し、5億回の再生を記録した。写真家の劉梓瑜(りゅうしゆ / リウ・ズーユー)は3,000元人民元(約6.6万円)の計算コストで短編を作り、ハリウッドの製作者から話を持ちかけられたという。
商業面での変化と人間の優位性
広告市場でも変化が起きている。ある仮想俳優の案件は1分あたり123万元人民元(約2,706万円)に達する価格提示があったと報じられる。AI俳優は出演料不要でスケジュール制約もなく、イメージリスクも低い。
それでも、商業コミュニケーションは感情的信頼に依拠する面が大きい。視聴者は実人生の経験や欠点、感情の揺れを受け止めることで共感を得るため、人間俳優の経験に裏打ちされた演技は依然として重要だと業界関係者は指摘する。
実作で応える范冰冰と業界の新方向
デビュー30年の范冰冰は、作品で業界の変化に応じている。主演作『瘋癲老人日記』(原題)や短編『她說』(原題)は釜山国際映画祭で評価され、昨年は『地母』(原題)で金馬賞の主演女優賞を獲得するなど、生活経験を反映した演技を重ねている。
脚本家の梁振華(りょうしんか / リャン・ジェンホア)は、細かな表情変化や心理描写は人間俳優の強みだと述べる。現在は、愛奇芸が実写俳優を起用しつつAIで背景を生成する試みなど、新たな折衷案も模索されている。
また、ある制作チームは量で勝負せず、現実題材や家族倫理を深掘りして感情の共鳴を築く方向にシフトしている。AI短劇の登場は業界に効率化と同時に創作の再設計を迫っている。

